「安全で、おいしい米を届けたい」と日々、
地道に田と格闘し、米どころ新潟を
支えている生産者も少なくない。
独自の栽培法、土作りなど
努力を重ねている作り手の取り組みをのぞいた。


黒酢散布で稲に抵抗力
月潟村 間嶋幸雄さん

 噴霧器のモーターがうなり出すと、ノズルの先から霧が流れ、ツンと酸っぱいにおいがたちこめてきた。「最初のうちは、このにおいが鼻についての」。うまい米作りを目指して20年以上の兼業農家・間嶋幸雄さんが日焼けした顔をほころばせた。背負った25リットルの噴霧器に何度も液を詰め替えて、あぜ道を往復する。水で50倍に薄めた黒酢液は、収穫まで3回散布される。
 「イモチ病、モンガレ病で、斑点のあった稲も1週間ぐらいでようなったね。それ以上病気が進まない」。間嶋さんが同農法で始めて4年目。酢の殺菌効果とその栄養から、稲そのものが健康になり、病気への抵抗力が強まったという。現在、コシヒカリ2.8ヘクタールを黒酢栽培している。
 玄米黒酢は米の玄米層に含まれるタンパク質が発酵の際に分解されるため、一般の酢よりもアミノ酸が豊富に含まれる。近年の健康ブームもあって飲料としての商品化も目覚ましい。「人が飲んでいいものは、植物にもよい」という理念から始まった同栽培法は、新潟市、月潟村、中之口村のほか今年から佐渡でも始められるなど、県内に少しずつ広がっている。黒酢栽培の研究をしている石山味噌醤油・開発室の養田武郎さんは、「光合成が盛んになり、葉の色が濃くなる。ずっしり、“骨太”な稲になり倒伏にも強い」と効果を挙げる。新潟大学の卒業論文テーマにも取り上げられるなど研究も進められている。
 黒酢栽培した間嶋さんの米は石山味噌醤油(本社新潟市)の通販部門・樽一本店の黒酢米として全国販売されている。カニ殻、鶏フンなどの有機肥料を与え、倒伏防止剤を使わず育てた米は「おいしい」と首都圏などの消費者に好評だ。今年は田植え前、ハウスで育苗中の苗にも通常より10倍薄い、500倍溶液をまいたところ「かっ着(土への根付き)がよくなった」と間嶋さんは話している。

噴霧器を背負い田を何往復もする間嶋幸雄さん。
周囲に酢のにおいが漂う

薄めた玄米黒酢を浴びて、きらきらと輝く稲。散布することで病気への抵抗力が強まるという

良質なたい肥で元気な土づくり
JAささかみ

 笹神村。素朴な田園風景の広がるこの村が「ゆうきの里ささかみ」を宣言したのは1990年のことだ。合言葉は「土づくりは、村づくり」。消費者が安心して食べられる農産物は健康な土壌づくりからという考えに基づくもので、それがひいては同村の農業振興にもつながるとの発想が根底にある。
 その“土づくり”のために作られたのが「ゆうきセンター」だ。ここでは村内の農家から集めた牛ふん、鶏ふん、牛尿、そしてもみ殻を原材料として良質なたい肥を生産。その量は年間およそ7,000立方メートルにのぼる。同センターの完工は91年というから、すでに10年以上にわたって土づくりに取り組んできたことになる。たい肥は「ゆうきの子」と名づけられており、笹神村では稲作を中心として活用。春と秋に散布され、元気な土壌がおいしい米づくりへとつながっている。笹神村のこうした“環境保全型農業”は高い評価を受け、96年には「第1回全国環境保全型農業推進コンクール」で農林水産大臣賞受賞という成果にも結びついた。
 この笹神村で生産される米は、首都圏コープ連合の産地指定米になっている。これは、78年からの同コープとJAささかみとの交流を背景とするもの。この時から笹神村ではこだわりの米づくりへの本格的な取り組みを始めた。それにともない、JAささかみの主導で消費者を招いての田植えや稲刈りイベントを開催するなど、産地の情報を積極的に提供。こうした取り組みが消費者からの信頼へと結びつき、さらに喜ばれるものを作ろうという生産者の意欲にも反映されている。「ゆうきの里ささかみ」宣言やゆうきセンターの設立は、そのような一連の流れのなかから生まれてきたものだ。
 消費者と生産者との交流は今でこそ珍しいものではなくなっているが、すでに20年以上も前からそうした取り組みを行い、それをよりよい米づくりに生かしてきた点が笹神村の先駆性を示しているといえるだろう。 

散布されるのを待つたい肥。浸水性や保水性、通気性をよくするなど、
植物の生育に適した土壌条件をつくりだす
  
ゆうきセンターの屋内たい積場。混合された原材料はここに運ばれ、約40日間かけてたい肥へと生まれ変わる

アイガモ農法で健康な土づくり
中之口村 武石貞夫さん

   中之口村でアイガモ農法に取り組んでいる武石貞夫さん。毎年100羽ほどの愛らしいヒナが、JASオーガニック認定農地である水田で、米作りの手助けをしてくれる。
 アイガモ農法とは、その言葉の通りアイガモを利用した稲作のこと。田植えから15〜20日後、約1カ月にわたって水田に放されたアイガモは雑草や稲につく虫を食べてくれる。水かきで土をかき回し根に酸素を与える。そのおかげで、化学肥料や農薬をほとんど使わずにすむという。
 武石さんが有機栽培に取り組んだのは、家族の体調不良がきっかけだった。食欲不振、風邪などの症状に始まり、アトピー、長引く下痢、髄膜炎などの症状に見舞われ、医者にみせても原因不明だといわれるばかり。そんなある日、米と土の変化に気づく。
 「朝炊いたばかりのごはんが夕方にはもう変色する。田んぼの土が変質してしまう。これは、稲作に使う除草剤が原因ではないかと思い始めました」
 家族の健康が第一と考えた武石さんは、無農薬・有機栽培を試みた。知り合いを通じて知ったアイガモ農法を取り入れたのは12年前のこと。その結果、家族の体調はみるみる回復。今ではうわさを聞きつけた人たちから、米を譲ってほしいとの引き合いも多い。
 「除草剤が土の中の微生物を殺してしまうことで、土も死んでしまう。そんなところで作った食べ物を口にしては、人間の免疫力も落ちてしまう。土は最高の生命力を持っているのです」。武石さんの自然や土に対する思い入れは強い。
 66歳とは思えないほど若々しい武石さん。「健康がいちばん大切。命は何物にも代えられませんから」との言葉が印象的だった。


まとまってチョコチョコと歩く姿がほほ笑ましい。どのアイガモも道を外れることなく、武石さんの言葉通りに進んでいく


  
アイガモはカラスに襲われやすい。しかし、武石さんがカラスをもならしてしまっているので、ここではそんな心配もない

炭とマイナスイオンの電子米
分水町 南雲治久さん

 電子技法栽培というあまり聞き慣れない農法に取り組んでいるのは、分水町の南雲治久さん。まずは電子米の生産方法についてうかがった。
 「電子米とは、簡単にいうと炭と電子水を利用して栽培した米のこと。田んぼの中に粉状の備長炭を埋めこんだり、土に炭をまいて肥料と一緒に耕したりといった作業で、土壌の環境を良くします。これで肥料や養分の吸収が良くなり、微生物が繁殖しやすくなります。また、炭を入れた水に電気作用を加えて作ったマイナスイオンの電子水を、7月後半から8月にかけて30〜50回、稲の葉面に散布します。この電子水が、農薬や化学肥料の影響を少なくするのです」
 この農法を始めたのは南雲さんの父親。25年ほど前のことだ。南雲さんの母親が病弱だったことがきっかけとなった。折しも農薬が人体に及ぼす影響が問題視されており、さまざまな農法についての情報が流れるなか、目に留まったのが電子技法だった。
 「まずは飲料水や料理、お風呂など、生活の場に電子水を取り入れました。使っているうちに母がとても元気になり、病気もしなくなった。『これなら農業にも活用できる』、そう思い農業用施設の導入に踏み切ったのです」
 南雲さんが作る電子米は、味の良さにも定評がある。米の味を数値で表す食味計による測定でも、有名産地に引けを取らない値を出している。
 「炭、水、空気という自然界にあるものを利用して人間の治癒力を高める。現代はそんな当たり前のことを見失っている時代」と話す南雲さん。電子米には「健康」と「おいしい米」への強い思いが詰まっている。

  
葉面散布の様子。電子水をまくのは大変な作業。おいしいお米を作りたいという南雲さんの強い気持ちの表れでもある


タンクに水道水と炭を入れ、エレクトロチャージャーで電子を付加。こうして作られた電子水を稲の葉面に散布する

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