時代が時代でしたから子供のころから家にあるのは書物ばかりで音楽にはあまり触れる機会がありませんでしたね。ですが、高校生のころに出会った友人達の影響で、以降はすっかりジャズの世界に傾倒してしまいました。おかげで随分と聴き分けられるようになったつもりですが、彼らには容易に感じられる微妙なリズムの差が、自分にはついに理解できないということがあって以来、ジャズに関してしょせん己は「B級の上」程度かと自嘲(じちょう)しています。
そんな私がジャズの歌い手のなかでナンバーワンだと思うのがフランク・シナトラです。表現力、歌唱力において彼を超える人はいないでしょうし、またエンターテイナーとしても傑出した人だったなと思います。名盤はたくさんありますが、心に残る1枚をあげるとすれば「only the lonely」ですね。タイトルから分かるように寂しい人のためだけにささげる歌、ということで悲しみを歌った曲ばかりを集めた地味でユニークなアルバムです。
初めて聴いたのは大学生の時。実はこの時、私は大切にしてきた友人を亡くしてしまい、失意の底に沈んでいました。彼に兄事し、同年ながら先達として慕っていたので、それはもう大変なショックでしたね。人生のとば口ともいえる時期にこのような打撃を受け、出合ったアルバムなので、今でも聴くたびに当時のころを思い出します。決して楽しい思い出ではなく、あのころに帰りたいと思うわけでもないのですが、挫折も知り、濃密な時代を力いっぱい過ごしてきたからこそ、今の自分が「例え何があったにせよ、人生はそう捨てたものではないのだ」と思う、どこか因縁めいたものを感じさせるアルバムです。
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