池田 浩子
映画愛好家グループ「昼下がりの映画サロン」代表。1953年、阿賀野市生まれ。同サロンは、毎月第2日曜の午後、クロスパルにいがた(同市礎町通3ノ町)で活動中。毎回テーマに選んだ映画2、3作品についてメンバーが自由に語り合う。


「過去のない男」
(2002年、フィンランド)
監督:アキ・カウリスマキ/出演:マルック・ペルトラ、カティ・オウティネンほか
(アミューズソフトエンタテインメント、3990円)

ヘルシンキにやってきた1人の男が、暴漢に襲われ、瀕死(ひんし)の重傷を負う。幸い、命は取り留めたが、一切の記憶が失われていた。偶然、通りがかった一家に助けられ、しばらくして男はコンテナで1人暮らしを始める。食事や服の世話をする救世軍の女性に恋心を抱くが…。2002年カンヌ国際映画祭グランプリと主演女優賞受賞作。


静かな作品に込められた強烈な印象

 この作品は、2年前にシネ・ウインドで見たと記憶しています。見終わった後の「充足感」がとにかく大変強く心に残りましたね。会では毎年、メンバー各自のベストテンを選んでいるのですが、これはその年の私のベストワン。全体でも4、5位にランクインしていたはず。ストーリーがすごいとかではなく、作品の持つ独特のけん引力にひかれました。死んだと思った男が起き上がって、曲がった鼻をグイとひっぱる。「あれ、死んだんじゃなかったっけ」とあっけにとられながら、作品の世界に一層引き込まれていくんです。登場人物に美男、美女は出てきませんし、みな、無愛想で、無表情、口数も少ないけれど、作品にはユーモアがちりばめられています。主人公はトレーラーハウスを掃除し、乾いた土にジャガイモを植え、救世軍から支給された服で仕事を探す。淡々と日常生活を送る姿からは、再生への意気込みが静かに伝わってきます。過ぎ去った時間や自らの過去に拘泥することなく、生きていくために前へ歩む、その生きっぷりがすごいと思います。コンテナハウスに水をまき、デッキブラシをかけているシーンに、生きることはまず自分の位置を決めることなんだなと思いました。ラストは、恋をした救世軍の女性イルマと2人で手をつないで歩いていく−。希望の見える終わり方もよかった。監督や役者で作品を選ぶことはあまりないのですが、深夜のテレビでつい引き込まれて見てしまった「マッチ工場の少女」と同じ監督と聞いて納得しました。見ている人の気持ちを引き留めるながら、最後までストーリーを持っていく力量はすごいと思います。

戻る