村井 勇
東京都出身の40歳。映画「阿賀に生きる」の助監督を経てフリーカメラマンとして活躍。新潟市在住。


「アパートの鍵貸します」
1960年(アメリカ)
監督:ビリー・ワイルダー
出演:ジャック・レモン、シャーリー・マクレーン

自宅アパートを上司の情事の場所に提供する気のいいサラリーマン。情事の相手は自分が思いを寄せる同僚だったことから、自分の人生を次第に見つめ直していく。アカデミー作品賞、監督賞など5部門受賞。数あるワイルダー作品の中で「サンセット大通り」とともに称される代表作。ビリー・ワイルダーは今年3月、95歳で死去。 写真協力:(財)川喜多記念映画文化財団


練られたシナリオが秀逸

  「女の年は首と手に出てくる」―。なんだかドキッとしますよね。映画「悲愁」に出てくる老プロデューサーのせりふです。本当は、同じビリー・ワイルダー監督のこの「悲愁」がぜひもう1度見たい1本でした。ところが、これが市内どこのレンタルビデオ店にも置いてないんですよね。
 もともとハリウッド大作よりは、娯楽映画が大好きでした。感動を1回で十分味わうものより、何度も見て、小さな発見を積み重ねていくほうがずっと魅力的だから。それに映画を見るって、個人的な体験でしょう。暗闇の中に、1人すっぽりと身をひそめている、あのひと時がいいんですよね。
 学生のころ通った名画座は、2本立て500円くらいでした。年間100本は見ていたでしょうか。中でも、ワイルダー監督の作品は、コメディーが多いのですが、ちょっとひねってあり、どこか冷めた視線が感じられる点にひかれますね。
 今回の「アパートの鍵貸します」も、すでに10回は見ました。とにかく、脚本が面白いんです。これ以上練られたシナリオは他にはないでしょう。いろんな場面、出てくる小道具、一つひとつにすべて意味がある。うまく伏線が張ってあるんです。
 例えば、主役のジャック・レモンが彼女(シャーリー・マクレーン)のためにパスタをゆでるシーンがあって、なぜか湯きりにテニスのラケットを使うんです。でも後で1人になってそのラケットをふと見ると、乾いたパスタが1本だけからまっている。独り身になった自分と1本のパスタになんともいえない切なさを感じます。
 ドキュメンタリー映画に携わってから、お年寄りのしわ1本でも多くのことが語れるんだと知りました。でも、この作品には「作りこまれたお話」の面白さがあります。あらすじだけ聞いたらかなりとんでもない話だけど、ワイルダー監督だからこそできた品のよさが感じられるんですよね。
 今夜あたり、シャンパンを用意して11回目の映写会といきますか。

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