柚木崎寿久(左):読書好きのフリーライター。月に10冊以上のペースで読破。好きなジャンルは小説。
横山翠:20歳から5年間新潟市内の書店に勤務。2年半コミックを担当。少女マンガを愛読。お薦めの作家は聖千秋、南Q太など。


「青い車」
よしもとよしとも (イーストプレス) 864円(税別)

表題の「青い車」のほか、95年から96年に書かれた短編マンガ7編が収録されている。デビュー作は、「Greatest Hits+3」(双葉社)に収められた4こまマンガ、「日刊 吉本良明」。このほか作品には、短編集「コレクターズ・アイテム」(KKベストセラーズ)、江戸時代の剣豪・柳生宗矩、十兵衛父子と対決する剣士を描いた「レッツゴー武芸帖」(双葉社)などがある。


「静けさ」に隠された熱いメッセージ

:この「青い車」の著者はどういうファンから支持されている漫画家なんですか?
:オシャレ系、サブカルチャー系の若者というところでしょうか。私がこの本を手にしたのは20歳の時でした。もう5年前になりますが、今あらためて読み返しても感動は色あせていないですね。
:どういうきっかけで読んで、どこに感動したんでしょう?
:きっかけは、なんとなく(笑)。でも、収録されている1編1編が全部心に残るものだったんです。自分の中にあった熱いものが凝縮されていて、そこに共鳴したと言うんでしょうか。ほんのちょっとした描写にもじーんときたりして。
:私がこの作品集から得た印象は「静けさ」です。登場人物は若い人たちが中心ですが、みんな淡々としている。感情をあまり表に出しませんよね、全体的に。それが時代の空気を感じさせる。
:この本が出たのは1996年です。著者が30歳くらいの時ですね。
:その前の年、1995年は阪神淡路大震災が起き、地下鉄サリン事件が起きました。
日本という国に対して若い人たちが疑問符を投げかけるきっかけになったと個人的には思っています。
:どういうことでしょうか?
:日本の安全神話が崩れた点もそうですが、国の対応に関して「ちょっと待てよ。この国に希望を持っていいのか?」と思わせてしまった。それが閉塞(へいそく)感にもつながっている。何かをしたいけど、その方向性が見えないというのかな。一生懸命に熱くなっても仕方ないんじゃないか、この国では。そんな価値観ですね。でも完全に希望を失ったわけでもないんですよね。熱くもならないけど冷め切ってもいない。そういう若い人たちの姿が登場人物に反映されていると思います。
:こういう漫画もあるんですよね。6年前の作品ですけど、ここまでのレベルに達しているんです。漫画への偏見を打ち砕くと言いますか、描き手と読者が切磋琢磨(せっさたくま)しながら質の高い作品を生みだしている。
:漫画が文学よりも劣っているとは思いませんが、この作品は漫画っぽくないですね。行間を読ませるという感じで、読者を突き放している。それは逆に言えば、読者の想像力を信頼していることになります。決して熱く語ることなく、しかしメッセージは用意されていて、それを読みとってもらうことに期待している。
:そう。だから面白くないと思うのは、その人の想像力が…(笑)。
:実は私は強く感動したわけではなくて、想像力の点では問題があります(笑)。
ただ、この息苦しい世の中でどうやって呼吸していくのかを模索している若者たちの姿はしっかりと描かれていますよね。どんな人に読んでもらいたいですか?
:高校生から20歳くらいの人ですね。特に、自分の方向性がハッキリ見えないという人たち。何かが心に残ると思います。私、以前に書店に勤めていたことがあって、この本を強くオススメしてたんですよ。「私が感動した本です」って手書きのポップも添えて。そしたら手にとってくれる人が増えました(笑)。
:この記事をきっかけにして、また読者が増えてくれるといいですね(笑)。

今回のメントリ表
柚木崎
横 山

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