島村麻里 Shimamura Mari
1956年東京生まれ。大学卒業後、メーカー、放送局勤務を経てフリーライターに。読書と旅行、食べることをこよなく愛している。新潟日報などの新聞や雑誌に書評やコラムを執筆。著書は『女はみんなミーハーです。』(河出書房新社)、『海外旅行のハローワーク』(光文社知恵の森文庫)、『地球の笑い方』(講談社文庫)

『あなたのために いのちを支えるスープ』
(辰巳芳子・文化出版局)

作るべきようにして作られたつゆものは、
ひと口飲んで、肩がほぐれるように
ほっとするものです。


今月のシマムラ
毎年恒例の年末進行に追われ、ちょっと疲れてます。暮れには久々に香港〜華南方面で休むつもりで飛行機も取りましたが……ちゃんと乗れるかなあ(苦笑)。読者のみなさまもどうか、良いお年を!

アジア、ヨーロッパ、そして南米 旅先で味わう至福のスープ
 年末に向け、締め切り地獄の日々である。夜なべするほど、逆に眠れなくなるのが厄介だ。
 寝床の周りに散らかしてある本に、当てずっぽうで手を伸ばす。昨夜はなんと『小公女』(バーネット・新潮文庫)。とくればそりゃあ、あの場面でしょう。
 「……炉のなかでは、焔がけんめいにもえあがったり、おどったりしていた。ふたりは皿のおおいをとりのけてみた。するとそこには、りっぱな、熱い、おいしいスープがあって――」
 裕福な生活が一転、極寒の屋根裏部屋で失意と空腹の日々を送る主人公サアラに何者かが“魔法”をかけるシーンである。伊藤整の訳文も風味豊かで、うう、いつ読んでも腹が鳴る。思わず台所へカップスープ(笑)を作りに立った。小公女がいただいた「りっぱな」スープって、中身はなんだったんだろう?
 寝つけぬまま、羊の代わりに世界の三大スープ、ならぬ「わが至福の汁もの」について数えてみる。
 トムヤムクンもいいけど、個人的にはトム・カー・ガイ(鶏肉の酸っぱ辛いココナツミルクスープ)かな。フランスでは各所で食べ比べるスプ・デ・ポワソン(魚のすり流し汁って感じか)や、安カフェでふうふうと夜更けにすするオニオングラチネ……。気がつけば旅先の汁気ばかり、思い出している。
 ボルネオでナマコのスープ、マレー半島で肉骨茶(豚肉やモツを漢方薬で煮込む)。暑いところでいただく熱々も、疲労回復には最高だ。踊り明かした朝、トドメに食べた牛モツのスープ@エクアドル、なんてのも。旅とスープにかんしては、自分で一冊の本が書けるほどだ。

おつゆ、スープに切なる願いを込めて… 病苦にある父が笑顔を見せたという汁物
 甘味もそうだが、汁気は気疲れ、遊び疲れに効く。最近凝っているのは菜食汁。『アロラさんのスパイシーベジタブル料理』(レヌ・アロラ・柴田書店)のレシピが楽しい。インド食の本だが、各種ひきわり豆のどろどろ煮と野菜の合体が、こんなに奥深いとは!
 奥深いといえば、強烈な一冊がある。『あなたのために いのちを支えるスープ』(辰巳芳子・文化出版局)だ。
 「何事か成しえたい志を持つ人は、日本の出汁くらい、楽々ひけるようでなければ、その志はむなしい」(出汁についての項より)
 ……はっきり申して、こわい。著者の口調がである。こんな人がしゅうとめだったらどうしよう。
 しかし、みそ汁から洋風スープまで、作ってみればいちいちうなずけるのである。だしのひき方、味の寄せ方。わたしはかつて新聞に載った著者のけんちん汁レシピ一発で、高いけれどもこの本を買った。
 厳しく映る口調も、著者なりの愛情なのだとわかってくる。「家庭生活の愛と平和を、おつゆもの、スープが、何気なく、あたたかく、守り育ててくれますように」(スープに託す、より)。そう、赤ちゃんからお年寄りまで、心づくしの汁ものは、なにより気持ちに効く……。
 ようやく眠くなってきた。忙しいからこそ、明日はちゃんと、だしから取ってみそ汁を作ろうっと?

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