柚木崎寿久(左):読書好きのフリーライター。月に10冊以上のペースで読破。好きなジャンルは小説。
守屋真理:1973年秋田県生まれ。新潟大法学部卒。民間企業を経て、ライターとして活動


「一夢庵風流記」
隆慶一郎(新潮文庫) 667円(税別)

戦国末期を自由奔放に生きた男・前田慶次郎。彼は異様な格好と振る舞いで人を驚かせ楽しむ傾奇者(かぶきもの)であり、剛毅な戦人(いくさにん)、またたぐいまれなる風流人でもあった。権力に逆らいながらさっそうと潔く生きる男を描いた長編時代小説。
隆慶一郎は1923年東京生まれ。東大仏文科卒。編集者、シナリオライターなどの職を経て、1984年「吉原御免状」で作家デビュー。1989年には「一夢庵風流記」で柴田錬三郎賞を受賞するなど意欲的に作家活動に取り組んだが、同賞授賞式直前に急逝。享年66歳。


真の男らしさ、生き方に魅力

:この本と出合うきっかけになったのは、「花の慶次」(集英社)というコミックなんです。面白かったので原作の「一夢庵風流記」も読んでみようかと。そうしたら夢中になってしまい、眠い目をこすりながらひと晩で読んでしまいました。
:作者の隆慶一郎さんは、たびたび新潟を訪れていたそうですね。小説の題材にする場所は必ず訪れて史実を検証される方だったそうで。
:実際にその場に立って、時代や背景をイメージしていたんでしょうね。だから、読み進むに従ってその描写のリアルさにどんどん引きつけられる。読み手の想像力を駆り立てるようなところがありますよね。
:男の生き方みたいなものが前面に出ている本ですが、女性の目から見てどう思われましたか。
:前田慶次郎というのは人間自身を大事にする人。人間臭く、愛きょうのある人です。いわゆる日本男児という言葉の裏には男尊女卑的な考え方が含まれているような気がしますが、慶次郎にはまったくそういう概念はないですね。本当の男らしさというのは慶次郎のような人を言うんじゃないでしょうか。
:相手が女性であろうが、自分の命を狙っている者であろうが、公平に接する。その中に、さりげない男の美学、美意識といったものを感じさせられますね。
:「おれについてこい」とは決して言わない。言葉にはしないけれど、彼の生き方に周りが引きつけられていく。とても理想的な男性です。
:慶次郎が心を許す数少ない人物のひとりとして、直江兼続が随所に登場します。新潟県人にとっては感情移入しやすいんじゃないですか。
:そうですね。私はこの本を読んで初めて兼続を知ったのですが、直江家、上杉家に縁のある六日町や上越では、特に親しみのある人物ではないでしょうか。
:そういった面から考えると、この本は新潟県人泣かせだな(笑)と…。特に印象的なシーンはどのあたりですか?
:最上(もがみ)の戦いですね。相手の最上勢は2万。対する上杉勢3千。どう見ても形勢不利な状況に、たった8人で立ち向かっていくあのシーンは、手に汗を握って読みました。戦人としての慶次郎の姿を見事に表していると思います。ほかには、秀吉に謁見(えっけん)するシーンですね。
:あれは、傾奇者としての慶次郎の真骨頂ですね。まげを真横に結って登場するところなどは、映像になって頭に浮かんできました。あと、妻子をおいて国を出るくだりでは、悲壮感が漂いながらも、ある意味さわやかさやロマンを感じます。
:自由奔放に生きた人だな、と。
:自由って、好き勝手に生きることじゃないですよね。自分のことは自分でしなければ生きていけないという大前提があって、そういう覚悟を持って自由になるわけだから、それなりに力量とか生きていく力が必要になる。簡単そうで、難しい。慶次郎は文武両道で、頭も良けりゃ力もある。それでいて天下を取るといった大きな野望を持つわけでもなく、ひょうひょうと自分のペースで生きていく。こういう本を女性が読むと、周りにいる男の人たちが小っちゃく見えてしまうんじゃないですか。
:それは言えますね。比べちゃいます(笑)。極端に言えば、はるか何百年も昔の人に恋をしてしまいそうな、そういう感じですね。
:そう聞くと、あまり女性には読んでほしくありませんね(笑)。自分の器を考えさせられるというか、リスクがあるというか(笑)…。ちょうどNHKの大河ドラマでも「利家とまつ」を放送していますが。
:慶次郎も登場していますので、どういう展開になるか楽しみです。時代小説はあまり好きではないという方にも、これをきっかけにぜひ読んでもらいたいと思います。

今回のメントリ表
柚木崎
守 屋

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