島村麻里 Shimamura Mari
1956年東京生まれ。大学卒業後、メーカー、放送局勤務を経てフリーライターに。読書と旅行、食べることをこよなく愛している。新潟日報などの新聞や雑誌に書評やコラムを執筆。著書は「アジアン・リゾートに快楽中毒」(講談社)、「本日のへなへなくん」(角川文庫)、「地球の笑い方」(講談社文庫)など多数。

『物語オランダ人』
(倉部誠著・文春新書刊)

このように自然が美しく、
暴力沙汰も少なく、
人も押し並べて親切なのに、
どうして嫌いと言い切る人が
少なくないのでしょうか。


今月のシマムラ
「久しぶりにクアラルンプールへ行ってきました。片道約5時間、料金3,000円程度の長距離バスでシンガポールから往復。なかなか快適な週末旅行でした」

オランダ・おいしいものってあるの……?
考えてみれば知らないことばかり

 この間、8年前にインドで知り合ったオランダ人の女友だちが、初めて日本に来た。
 連れ歩いた居酒屋では熱カンをグイグイ。サシミ、てんぷら、もずくに煮込み、何を食べても「うまい、うまい」。聞けば、日本食は母国でも大人気という。  一方、オランダの食べものについて、私はなにを知っていただろう。
 エダムにゴーダ(チーズ)、ニシンの酢漬け。悪いが、せいぜいそんな程度である。アムステルダムには二度行ったが、欧州旅行の帰途だったせいもあり、つい、チュウカやインドに(胃袋が)走っていた。「今度来たら、名物のエルテン・スープをこしらえるから」。友だちはいかにも残念そう。「私たちの国にも結構うまいもんがあるのよ」
 『オランダあっちこっち』(根本孝・実業之日本社)によると、やはりエルテン・スープは代表的料理らしい。えんどう豆をベースに豚足や豚耳、各種野菜などをこってりと煮込む。同国の料理本は、このスープのレシピから始まるものが少なくない、とも。うう、知らんかった。ほかにも、ベルギーで有名な「ムール貝の大鍋食い」だが欧州最大の産地はオランダなこと。「ハイネケン」だけでなく、オランダビールは約250種もあること、などなど、知らずに損した、てな感じの話題が同書には満載だ。

徹底した自由平等とケチで有名なオランダ人
 チューリップ、風車、木靴にデルフト(注)。
 じゃあ、オランダという国についてもそれ以上、なにを知っていただろう。『物語オランダ人』(倉部誠・文春新書)には、“驚がくの事実”がてんこ盛りだ。
 おごられ好きだがまずおごらない(しかし災害の義援金などは率先して出す)。ミスをしても注意されない=配慮が行き届きすぎた教育や労働環境(一方で確立した個人意識)。長く同国で暮らした人だからこそ語れる実情の数々が、辛らつだがユーモラスに紹介される。安楽死や同性婚の早くからの容認、環境意識の高さ。「小さな大国」「個人立国」などと著者はとらえ、オランダには日本の未来を考えるヒントがたくさんある、と結ぶ。
 ところでオランダといえばもうひとつ、「アンネ」があった。『思い出のアンネ・フランク』(M.ヒース・A.L.ゴールド・文春文庫)は、フランク一家をかくまい、自身も飢えに苦しみ、密告を恐れながらも隠れ家に欠かさず食料や物資を届けたミープさんの回想録。再読してみればこれがまあ、「ご本家(アンネの日記)」をしのがんばかりの感動作である。
 ミープさんはウィーン生まれ。第一次大戦で栄養失調児となり、オランダの養家に引き取られたのだった。その恩を忘れず、今度は彼女がユダヤ人を助ける。が、「人として当たり前のことをしただけ」だと、姿勢はいたって謙虚だ。暮らしぶりはケチといわれながらも援助の手はいち早く、手厚く。そんなオランダ人気質が、この本からも伝わってくる。
 ひとりの友人の来訪が、興味の扉を開けてくれた。ほかほかのエルテン・スープをよばれにぜひ行こう。日本酒をみやげにね!

注:デルフトとはデルフト焼という陶器の産地で有名なオランダの都市

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