島村麻里 Shimamura Mari
1956年東京生まれ。大学卒業後、メーカー、放送局勤務を経てフリーライターに。読書と旅行、食べることをこよなく愛している。新潟日報などの新聞や雑誌に書評やコラムを執筆。著書は「アジアン・リゾートに快楽中毒」(講談社)、「本日のへなへなくん」(角川文庫)、「地球の笑い方」(講談社文庫)など多数。

『作って楽しむ信州の粉食』
(横山タカ子・信濃毎日新聞社)

地元に伝わる伝統的な粉食レシピだけでなく、簡単でヘルシーなおやつ、世界各国の粉食まで網羅した充実の一冊。いざ、めくるめく粉食ワールドへ!


今月のシマムラ
私がキノコに魅せられたのは、小学生のころ見た東宝映画『マタンゴ』がきっかけでした。怖くてその後二度とキノコが食べられなくなった子と、その逆とに分かれた記憶があります(笑)。

信州・そば粉だけじゃない!
奥深い“粉食”の世界にクラクラ

 北は小麦、南は米。
 饅頭(まんじゅう)、餃子(ギョーザ)などが台頭する北中国。ナーンやチャパーテイの北インド。対して東南アジアなどでは、めん類にせよ餃子の皮にせよ、米粉がイバっている。流通の発達で、小麦も米も各地で食べられるいまとはいえ、気候風土に沿った食、その基本は変わらない。
 ニッポンにおいてもしかりである。わが国有数の「粉王国」といえば、信州。その地元から、なんともたまらん本が出ている。
 『作って楽しむ信州の粉食』(横山タカ子・信濃毎日新聞社)。小麦粉、そば粉、米粉などを用いた伝統&創作レシピが写真付きでびっしり。地元紙出版局の強みか、その“濃い”中身にびっくりだ。
 灰焼き、蒸し焼き、笹焼き。「定番」のおやきはもちろんのこと、そばだんご、そばクレープ、ぶっこみ(ほうとう)に繭玉(団子)。「おやき歴うん十年」など、信州各地の“郷土食の神々”に取材したレシピが並ぶ。
 そば粉をフライパンで焼き、ネギみそを載せる「薄焼き」、大豆の浸し汁も残さず使う「如月せんべい」などなど、その発想とヘルシーさ加減にいちいちうなる。さらにはピタブレッド、ブリニ(ロシアのそば粉パンケーキ)など、世界の粉食まで幅広く紹介。まるで、頭からしっぽまであんこがぎゅっと詰まったたい焼きのごとく。いやあ、信州=そばのみにあらず、ってのがよおくわかる。
 本書によれば、スローフードの流れから昨今地元産の「地粉」が見直され、増産が続いている、とのこと。私もこの本で“こなもん”の達人を目指そうっと!

秋の食材ならやっぱりキノコ
こちらも負けずに魅力的!

  さて、信州の秋とくれば、キノコである。って、やや強引か。じつは私、結構なキノコ好きなのだ。
 『きのこ狩り名人のきのこ料理』(小宮山勝司・家の光協会)は、菅平で「ペンションきのこ」(!)を営む著者によるもの。煮物、いため物など、野生のキノコを使ったレシピは「その道の専門家からみるととんでもない料理なのかもしれませんが、体裁にこだわらないわが家のキノコ料理です」(まえがきより)。
 滋賀県出身だがキノコ好きが高じて長野に移住、秋場はキノコ料理しか出さないため若者客に逃げられ……など、著者のとぼけた語り口も味わい深い。
 “こなもん”にキノコとつなげたら、例によって、信州に出かけたくなってきた。道中の友には、あの本を連れていこう。
 『キノコの不思議』(森敦編・光文社知恵の森文庫)は文字通り、「なぜあんなもの(キノコ)がこの地上に生えるのか」について、水木しげるや中沢新一ら、各界のお歴々が大まじめに寄せたエッセーのアンソロジーなのだが、これがひたすら、笑える。なかでも故手塚治虫の一編は、まるで毒キノコにヤラれたかのごとく、腹が痛くなることうけあいだ。
 粉と菌類に呼ばれて信州へ。食欲の秋、読書の秋を頭とおなかで、満喫したいものだ。

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