島村麻里 Shimamura Mari
1956年東京生まれ。大学卒業後、メーカー、放送局勤務を経てフリーライターに。読書と旅行、食べることをこよなく愛している。新潟日報などの新聞や雑誌に書評やコラムを執筆。著書は「アジアン・リゾートに快楽中毒」(講談社)、「本日のへなへなくん」(角川文庫)、「地球の笑い方」(講談社文庫)など多数。

『酒井美代子の今夜は台湾料理』
(農文協)

高校時代から台湾とかかわりの深い著者が、現地の人々から教わった台湾料理75種類。今日の夕食で試してみたいメニューがいっぱい。


今月のシマムラ
青森の方にいただいた「ししゃもきくらげ」というつくだ煮に恋愛中。ごはんにかけ、豆腐にまぶし……。「知らなかったおいしさ」に出合った瞬間の興奮が、寄る年波とともにパワーアップの一途なのが怖いです(笑)。

台湾・今夜の夕飯にはこれ!手軽に作れる本場の味
 夏休みを台湾で過ごした友だちから、美味なお茶が届く。メールボックスを開ければ、台北の友人から結婚するとのニュースが。さらにもう一発、ごぶさただった別の友だちからも、台北発で近況報告のメールが来た! となれば、夕飯のおかずに「あっち方面」を選ばずにおれようか。さっそく手に取るのは、『酒井美代子の今夜は台湾料理』(農文協)。われながら、わかりやすいヤツである。
 紫菜蛋湯(海苔と卵のスープ)、豆鼓蒸鱈魚(銀だらの豆鼓蒸し)、魚干炒青菜(しらす干しとほうれん草のいためもの)……。ちまきや大根もちなど、より手の込んだものはレストランで楽しみ、いためものや蒸しものから気軽に挑戦。酒井さんのレシピはその点、手近な材料で作れるものが多く、結構ヘビーに活用している。
 作るにせよ、食べるにせよ、台湾ごはんにはどこか“安心感”がある。小皿にちまちま盛りつけて、という食べ方も関係するのか。屋台に夜市に小食堂。現地でも、その「ほっとする」加減が付いて回るのはなぜだろう。
 『程さんの台湾料理店』(程一彦・晶文社)を読んで、“謎”の多くが解けたのだった。
 スープはさらさら系中心=おすまし感覚大、野菜をふんだんに食べる、おかゆは日本と同じく白がゆで、海の幸が豊か……。ちなみに、小皿で供するスタイルは日本から入ったそうなのだが、いやあ、なるほどね。台湾はやはり、九州、沖縄と海づたいに連なる、私の「大好き系」食文化圏だった。
 台湾人の母と日本人の父の間に生まれた著者の程さんは、終戦直後の大阪駅前に両親が開いた台湾料理店の二代目。じつに博学多識の料理人である。土地の水質によるだしの取り方の違い、なぜ日本は焼きギョーザ台頭圏なのか、など、知ってたようで知らなかった話をこれでもかと大サービス。食文化好きなら、巻末に納められた石毛直道氏との対談は必読だ。

名作映画と関連本で過酷な運命と闘った人びとを知る
 わかっていたようで、なんにもわかっていなかった。それは、歴史についてもである。
 台湾ごはんを楽しんだ後は、主演俳優トニー・レオンのファンというだけで昔見た(これもじつにわかりやすい!)、映画「悲情城市」のビデオを久々に取り出す。侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督といえば、最新作『珈琲時光』が話題だが、「悲情城市」、はMYリストにおける永遠の名作である。
 そばに置くのは『悲情城市の人びと』(田村志津枝・晶文社)。日本の植民地支配、そして戦後の国民党支配、その間どれだけの血が流れ、歴史にほんろうされた人びとがいたことか。著者は、映画の中で歌われる一曲の歌を頼りに、激動の時代を生き抜いた人たちの肉声を丹念に伝える。
 食べて、読んで、見て。そして結局、行きたくなって終わるのである。というより、もう一度泣きに行く? はい、かつて「悲情城市」の舞台となった基隆や九 を訪ね、落涙しまくった経験あり。いやはやどこまでも、わかりやすい人間なんでございます。

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