島村麻里 Shimamura Mari
1956年東京生まれ。大学卒業後、メーカー、放送局勤務を経てフリーライターに。読書と旅行、食べることをこよなく愛している。新潟日報などの新聞や雑誌に書評やコラムを執筆。著書は「アジアン・リゾートに快楽中毒」(講談社)、「本日のへなへなくん」(角川文庫)、「地球の笑い方」(講談社文庫)など多数。

『ほげらばり』
(小林聡美著・幻冬舎文庫)

コメディーからシリアスまで達者にこなす演技派女優・小林聡美のメキシコ旅行記。
女優のお遊びを越えた文章力でつづられるメキシコでの体験の数々は大爆笑ものだ。
読むと元気になる傑作紀行エッセーである。


今月のシマムラ
3月15日に、『地球の笑い方ふたたび』が講談社文庫より発売になります。『地球の笑い方』の続編です。機会があったらぜひ読んでみて下さい。

メキシコ・スパイシーなソースが決め手!
「たれ」のバリエーションの多彩さにびっくり

  年に最低一度、タコサラダの会を拙宅で催すことにしている。今年もそろそろだ。  タコといっても魚介類のほうではなく、メキシカンである。刻んだ生野菜にスパイシーに味つけしたひき肉を載せ、生トマトの辛〜いサルサ・メヒカナをぶっかける。アボカドをつぶしたワカモーレや金時豆を練ったフリホーレス、溶けるチーズにレモン汁、香菜やサワークリームを加えてめちゃくちゃに混ぜ、コーンチップスをパリパリとかじっては、「ああ、うまい」。我流の極みではある。がスパイシー食に目のない友人や私は年一度、われを忘れて「メヒコな時間」に浸る。
 タイや韓国の料理が好きな人なら、きっと愛してもらえるはず。86年に旅行して以来ずっとそう思ってきたがいかんせん、日本ではまだまだ食べられる場所が少ない。
 『魅力のメキシコ料理』(渡辺庸生著・旭屋出版)の著者は、東京・代官山『ラ・カシータ』のオーナーシェフである。約25年前に店を開いたときには、タコスなどの皮に使うトウモロコシ粉や唐辛子の入手に苦労した。しかしそれがかえって、「メヒコといえばタコスにブリトー」といった狭さ――そもそも冒頭のサラダを含め、日本で知られる料理の多くは米国流なのだ――から脱することができたという。  読めば実際、その多彩さにクラクラ。「サルサ(ソース・たれ)天国」でもある。ビターチョコレートやゴマを使ったサルサ・モーレ、大量の唐辛子を一晩水につけ、つけ汁ごと作るサルサ・ロハ(赤)などなど、とかくたれ系に目のない者にとっては驚くばかりのバラエティー。冷蔵庫に残った鶏もも肉の一枚が、いく通りに変身できることだろう!

旅の神髄は「現地の人との触れ合い」
アミーゴ(友達)&アモール(愛)を探しに

 レシピを見れば行きたくなる。これまたいつもの流れである。
 タレントさんの旅行記は普段あまり読まないのだけれど、『ほげらばり』(小林聡美著・幻冬舎文庫)はイケる。16日間で6カ所を回ったメキシコ日記だ。
 遺跡でへとへと、怪しげな日本料理店、怪しげな空港案内に本場?の“トリオ・ロス・アミーゴス”を探して……。名勝旧跡をたたえる記述、見事になし。著者のまなざしは、旅先で出会う一見ヘンだけど愛せる人々に温かく向かう。腸詰め屋の前で突然メキシコ人に“ナンパ”される「ラモスとデイト」の項は出色だ。ラテンな人々が沸かしてくれる「情」という名の熱いお風呂に、私もまた漬かりたくなってきた。
 メキシコから南には、広大なるアミーゴ(友だち)&アモール(愛)な文化圏が広がっている。「美辞麗句地帯」(とにかく表現がおーげさ)、「口先文化圏」(相手を喜ばせたい一心でつい、出まかせをいう)などがいかにどう、成立したのか。『ラテンアメリカ・人と社会』(中川文雄・三田千代子編・新評論)でもって、目下お勉強の最中である。
 食も、人も、どうせならおいしく学びたい。

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