島村麻里 Shimamura Mari
1956年東京生まれ。大学卒業後、メーカー、放送局勤務を経てフリーライターに。読書と旅行、食べることをこよなく愛している。新潟日報などの新聞や雑誌に書評やコラムを執筆。著書は「アジアン・リゾートに快楽中毒」(講談社)、「本日のへなへなくん」(角川文庫)、「地球の笑い方」(講談社文庫)など多数。

『オリーブ』
(川路妙著・フレーベル館刊)

地中海の国々に昔から伝わるオリーブの実やオリーブ油を使った料理と、美容法、健康法を紹介。読み応えのある1冊である。評論家・四方田犬彦氏のエッセーも収録。


今月のシマムラ
当欄でご紹介した本の著者の方にも、何人か、連載を読んでいただく機会がありました。食欲と旅行欲の取り持つご縁、うれしいです!

地中海周辺・ワイン好きならここでしょう!
オリーブ油が料理をもっとおいしくする

 シンガポールで2週間、インド食&屋台チュウカにまみれて帰ってきたばかりである。で、あのへんから戻ればきまって胃袋が叫ぶのだ。早く地中海を! と。
 なぜか和食を! とはならず、パスタにチーズ、イカのトマト煮込みなどが無性に食べたくなるのである。アジア方面ではお米やしょうゆ味に不自由ないぶん、帰国後“第三の地”に腹が向くのか? われながら不思議だ。
 いずれにせよ、いわゆる「オリーブ油つながり」の地中海方面は、わたしにとってアジアと並ぶ宿命の地。いちばん好きなお酒=ワインという者にとってはなおさらだ。
 『オリーブ』(川路妙編・フレーベル館刊)は、そんなわたしの地中海周遊願望をいつも目いっぱい、くすぐってくれる。
 地中海ダイエットの研究家でもある編者が、オリーブ油を使った各地の料理を紹介。チーズやスパイスなどの解説もていねいだ。穀類をベースに豊富な野菜と果物を、肉類より魚介類や乳製品を多く採る地中海食のレシピの数々。作ればどれもワインにぴったりすぎて、グラスの進み具合が恐ろしくなるほどである。
 地中海といえばイタリアやスペイン、ギリシャなどをつい、連想しがちなのだけれども、この本でイスラム圏の料理にも数多く出合った。「チキンシチュー・オリーブとレモン風味」(モロッコ)、「ソラマメのピューレ」(エジプト)、「ミートボール入りヨーグルト・スープ」(トルコ)。うう、実際に出かけたのは、南仏と南西(スペイン)くらいでしかない身がもどかしい。現地の味をいずれぜひ。死ぬまでにどうしても、地中海をぐるりと一巡り、せずにいられようか。

地中海世界の謎と魅力がつまった1冊と
何度も読み返したくなる1編

 紀元前2000年ごろから、各地に都市が発達していたという地中海世界。海伝いに商人が行き交い、多様な文化を伝え合った。豊かな食文化のありようも、その長い歴史によるものか。『都市の地中海』(陣内秀信著・NTT出版刊)は、主に都市と建築から、地中海世界の魅力に迫る。あのへんの特徴の一つである真っ白に塗られた住宅は、なぜ生まれたか。「中庭」文化、カフェ文化など、人と暮らしの歴史が、わかりやすく頭に入る。
 ならばもう一冊、アレはどうか。『アポロンの島』(小川国夫著・講談社文芸文庫刊)。15年に一回くらいの割で、なぜか無性に読み返したくなる短編だ。
 著者自身がモデルとおぼしきフランス滞在中の青年がアテネからミコノスに船で渡り、数日間滞在する。ものの見事に「それがどうした」ってな話である。旅情臭さ、なし。(旅行記にありがちな)思い入れ、もっとなし。だけどわたしなんかは案外好きなのね。「ギリシャとユーゴースラヴィアだけで飲んだ、臭い葡萄酒」とは書くが、そのワインがじつはけっしてイヤではない……みたいな屈折の具合も含めて。何度読んでも、覚えているのがいつも飲み食いの場面なのはもちろん、いうまでもありません。

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