島村麻里 Shimamura Mari
1956年東京生まれ。大学卒業後、メーカー、放送局勤務を経てフリーライターに。読書と旅行、食べることをこよなく愛している。新潟日報などの新聞や雑誌に書評やコラムを執筆。著書は「アジアン・リゾートに快楽中毒」(講談社)、「本日のへなへなくん」(角川文庫)、「地球の笑い方」(講談社文庫)など多数。

『わたしのベトナム料理』
(有元葉子著・柴田書店刊)

女性に人気の料理研究家・有元葉子さんがほれこんだベトナム料理を、日本のキッチンでも本場の味を再現できるように紹介した1冊。ベトナムの歴史や食文化についても知ることができる。
作ってみる前に味を知りたい方は、特集でも紹介したレストランY’s CAFE TEL.025(229)2377へ。本のバックに写っているのは緑豆の白玉だんご・ショウガシロップ


今月のシマムラ
10月26日(日)午後4時から、NHKラジオ第一「日曜ラジオマガジン」に出演します。お時間あったらぜひ聴いて下さいね。

ベトナム・カエルからタウナギまで、おいしさは格別!
文章を指さすだけで注文できる会話帳は必携の1冊

 数年前に1週間行ったきりなのに、ヤラれ方は超ド級なのが、ベトナム料理である。
 扉なしトイレの真横でコックが鍋をふるう(!)ハノイの安食堂で食べた、秀逸極まりないカエルの唐揚げ(カエル跳びをしてみせて注文した)。ホーチミン・シテイの五つ星ホテルで、気取った花文字で書かれたフランス語メニューから当てずっぽうで選んだら、これがわが舌の歴史に残るタウナギのサラダ。屋台から高級レストランまで等しく繊細にして優美なる“越南食”が、今日も恋しくてたまらない。
 あの時この本が出ていたなら、注文の苦労と食べ損ないへの後悔は、もっと少なかったろうに…。
 『食べる指さし会話帳・ベトナム』(池田浩明著・情報センター出版局刊)である。
 最近出かけた周りの連中はほぼ全員、この本を「連れて」行った。料理のカラー写真とイラストにベトナム語と日本語が付き、文字通り指さすだけで注文できる。現地の人々の日常食も豊富に紹介されており、食い意地と一緒に簡単な日常会話もマスターできるという優れもの。食欲と文化交流欲に楽しく応えてくれる。

生野菜がいっぱいでヘルシーなベトナム料理
わが家のキッチンでもさっそく挑戦したい

 なにが幸せといって、ベトナム料理にはめん類にでもサンドイッチにも、これでもかというほど、生野菜が付いてくることだ。ライスペーパーで巻いたり、汁ものにじゃんじゃんぶち込んだり。揚げものにも必ず、たっぷりの野菜が添えられる。
 このヘルシーさ加減をわが家の台所で追求するには、『わたしのベトナム料理』(有元葉子著・柴田書店刊)がお助けだ。「生ウニとレモンと玉ねぎ」「イカとパイナップルのいためもの」「切り干し大根のヌクマム漬け」などなど、取り合わせの意外さに驚きつつも、こしらえてみれば病み付きに。「一般家庭の台所事情」など、食文化の解説記事も充実している。
 ああ、作ればそれだけ行きたくなる。今度は現地の人の台所にお邪魔したい。ヒトと食文化との長くて深い関係を、互いの胃袋や鍋釜を通して、もっと学び合いたい!
 そこで3冊目には、健啖家(けんたんか)としても知られた開高健の『ベトナム戦記』(朝日文庫刊)を、(ちょっと硬派に)お薦めする。
 「ベトナム兵は洗面器で顔を洗い、体を洗い、その洗面器に米飯やオカズを盛り、作戦だというと茶をわかして水筒につめる」。1965年、100日に及ぶ南ベトナム(当時)従軍体験の記録だ。「神経が一本、一本ヤスリにかけられるよう」な戦火の下でもたくましく食べ、飲み、作る人々の姿が各所で生き生きと描かれる。
 「彼らにとって楽しみはまったく食べることと寝ることだけで、ひまさえあればしゃがみこんで洗面器のまわりに群がり、口をうごかしている」……。うなり、考えさせられる場面、多数。ベトナム観光人気沸騰のいまだからこそ、かえって染み入る一冊であります。

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