柚木崎寿久(左):読書好きのフリーライター。月に10冊以上のペースで読破。好きなジャンルは小説。
駒形 豊:学生時代を東京で過ごし、生まれ育った長岡市に帰郷。現在、「近代事務機(株)」代表取締役社長、「長岡インターネット(株)」社長を兼任する。


「泥棒日記」
ジャン・ジュネ
朝吹 三吉(訳)
新潮文庫(705円+税)

パリの施設で生まれ、孤児として育ったジュネ。この作品は、15歳で少年院に入れられるが後に脱走。以後20年間、こじき・泥棒・男娼(だんしょう)をして放浪生活を送り、ヨーロッパ各地の刑務所を転々として生きてきた、ジュネ自身の体験をもとに書かれた自伝的小説であり、また彼の代表作でもある。犯罪者として社会に身を置くジュネや男娼仲間たちを軸に、悪の世界について描かれたこの作品は、フランス小説の中でも類を見ない特異な文学として評価が高い。


70年代 文学青年のあこがれ

:駒形さんが最初にこの本を手にとったのは、いつごろだったんですか?
:ジャン・ジュネの作品が日本に紹介されたときなので…70年安保の時代、大学1・2年生のころに読んだのが最初です。全作品は読んでないのですが「花のノートルダム」は読みました。堀口大学氏の翻訳が実に素晴らしかった。
:いわゆる「放浪小説」というジャンルにもひかれて読まれたのでしょうか?
:「放浪小説」というか、この作品は「悪漢小説」のようでもあり、また「旅行記」のようでもありますよね。
:ちょうど70年代の空気に合っていたというか、当時の学生たちにとっても、面白い作家が出てきたなっていうのはあったんでしょうね。
:ジュネは当時の文学青年たちのあこがれの作家でしたよ。まさに学生運動の前夜という感じの時代で、当時、私も寺山修司の天井桟敷(さじき)の舞台「バルコニー」を見に行った記憶があります。
:フランス国内でも、サルトルやコクトーなどの文化人に絶大な評価を得ていたようですね。
:そうですね。そもそもジュネの作品のように、泥棒や犯罪者から生まれる文学というのは、非常に珍しいケースだと思うのですが、そういった従来の文学にはない点がフランス国内でも人気を得た理由の1つではないかと思います。私自身は、ジュネが権威を持っているとか立派な芸術家ではなく、その対極に生きている表現者だというところに面白みを感じました。
:なるほど。私は最初「泥棒日記」というタイトルに魅力を覚えたんですが(笑)、なんというか…簡単には読み解けない非常に歯応えのある作品でした。まず驚いたのは、生まれたときから下層社会でしか生活してこなかったジュネが、どこでこのような文章の表現力や、思考力を身に付けたのだろうということです。
:10代で教会の賛美歌の合唱団に入っていたということが、わずかに教養教育を受けるチャンスであったようです。
:徐々に読み進んでいくと、美の表現1つとってみても、イマジネーションの飛躍の仕方や、その描写はなかなか面白いものがありますよね。この作品は泥棒や犯罪といった悪の世界を題材にした自伝的小説だから、その辺りが妙にアンバランスな印象として残りました。
:洗練された表現や文学の力というのは、往々にして教養から生まれるものですが、インテリ層でないところから出てきた作家であるジュネが、「悪の世界というのは社会を反対側から支えているのだ」という反モラルな姿勢から生まれた彼の文学でピシッとインテリ層を制してしまったというのもまた大きな魅力に感じます。後にジュネは、今のバレスチナ問題を予言するなど、政治的な発言も多く残しているんですよ。
:お話を伺っていると、駒形さんにとってかなり思い入れのある作家であることが伝わってきますね。
:はい。確か大学3年生のころに「ジャン・ジュネ全集」が発行されまして、三島由紀夫が帯を書いたのですが、その文章を読んで「三島由紀夫より自分の方がジュネを理解している!」と思ったほどです(笑)。

今回のメントリ表
柚木崎
駒形

戻る